7月 25

「売り切れても良い」デリシア萩原社長が語る“ローカル”スーパーマーケットの社会課題解決

私たちハルモニアは、「持続可能性と経済性を調和(ハーモナイズ)させること」が現代の社会課題解決に必要である、というコアアイディアを社名の由来としています。事業活動を通じて様々な企業経営者と対話を重ねるなかで、私たちは次のような仮説の確信度を深めてきました。

  • 企業の存在意義(パーパス)は、顧客ニーズの充足を越え、社会課題の積極的な解決へと移行していく
  • その移行にはパーパスと利益創出の両立が絶対条件となり、データに基づく価格戦略の再考や仮説検証の力がますます重要となる

本企画では、小売・流通業のリーダーたちがどのように未来を見据え、どのように変革に挑戦しているのかをお聞きしていきます。インタビューと対話を通じて、上記の仮説を磨きつつ緩やかなコンセンサスを築くこと、また、各企業が移行を成功させるためのナレッジを見出して共有することを目指します。

今回ご登場いただく株式会社デリシアは、長野県で地域密着型のスーパーマーケット事業を展開し、サステナビリティを顧客との関係づくりにおいて重要なキーワードと捉え、積極的に発信している企業です。その考えを社内で浸透させるまでの道のりや、これからのスーパーマーケットの在り方について、萩原社長の考えをお聞きしました。

話し手:萩原 清(株式会社デリシア 代表取締役社長)
聞き手:松村 大貴(ハルモニア株式会社 CEO)

株式会社デリシア 概要

スーパーマーケット事業を核に長野県を中心に地域密着型事業を展開。
”お客様に「おいしさ」と「安心」を届ける”こと企業理念として掲げ、食品スーパー「デリシア」を長野県を中心に60店舗(2023年7月現在)、移動販売「とくし丸」やネットスーパー事業など少子高齢化社会等、地域課題に寄り添いマルチチャネルで事業を展開している。

マスマーケットよりもスーパーローカルからの課題解決

松村 大貴(以下、松村):日頃からご一緒しているデリシアの萩原社長に、今日はその思いや戦略を深くお聞きしたいと思います。デリシアは以前から長野県と”エシカル消費”に関する提携を行うなど、持続可能性への取り組みに積極的な印象です。萩原さんはデリシアの経営においてサステナビリティをどのように位置付けて考えているのでしょうか?

萩原 清(以下、萩原):デリシアのポジションはここ数年で大きく変わりました。 商売ですから競争力が重要視される世界でもありますが、今は競争が全てではないと思っています。きちんとポジションを作り上げた会社だけが生き残ることができる社会なのだと。そういった意味で、デリシアは徹底した“スーパーローカル”(地域密着)なスーパーマーケットを作り上げなければならないと考えています。

松村:スーパーローカルがキーワードですね。

萩原:はい。地域の人たちが安心して住めて、頼りにしてくれて、共感してくれる企業にしていかなくてはなりません。そのために外せないのがサステナビリティやSGDsだという結論を得ました。情報をしっかり開示して理解を深め、共感してもらうことで価値観を上げていく。これはビジネスとしても地域貢献としても成り立つものだと思います。今はこういう考えに徹してます。

「売り切れても良い」 常識にとらわれずに考えるこれからのスーパー

松村:次はハルモニアもご一緒している食品ロスについて掘り下げたいと思います。食品ロスは大きな社会課題として認知されてきました。この課題解決とスーパーマーケットの今後の経営を考えた時に、売り場や製造・販売のあり方はどうあるべきだと思いますか?

萩原:今のスーパーマーケットは「欠品はダメ」とか「夕方のピーク時は惣菜や青果がきちんと並んでいなきゃダメ」といった伝統的な考え方が前提になっています。間違いではないのですが、それによりどれだけのロスが起きているかという検証は、我々も含めてなかなか出来ていません。一方、営業会議では「なぜこんなにロスが多いんだ」という意見が挙がる。そういう矛盾が起きてしまっているのが現状です。つまり、作る側も売る側も、お客様の本質的な買い物ニーズを理解していないんです。

食品ロスをなくすためには、お客様の生活の変化にも配慮しつつ、今までの商売に対する考え方から見直す必要があると思います。そのひとつとして考えるべきことは、利益を重視した売り方です。今まさにハルモニアの皆さんにやってもらっているように、ロスのデータを分析し、どのような水準で販売すると利益が最大化するか予測を立て、それに応じた売り方をするという方法です。

もし仮に、不要な値引きや廃棄がなくなって利益も最大になるということであれば、極論すれば19時に商品が売り切れていても良いと思っています。もちろんそれではお客様にご不便をかけてしまうのでは、という懸念はあります。しかし、無駄な廃棄をなくして必要な量だけを販売することに対するお客様の理解は、これから広まっていくと思うんです。

松村:その取り組みをお客様にポジティブに捉えてもらうためのコミュニケーションも重要になっていきますね。

萩原:例えば、人気商品を数量限定にして、17時には売り切れてしまうとしましょう。商品のクオリティがマッチすればお客様も理解してくれます。そうした商品をいかに増やしていけるか考えていくと、総菜売り場の風景がガラッと変わります。

これまでは欠品しないように十分な量を作っていましたが、今の話はむしろ逆。先着順のような形に変わります。商品のおいしさや価値を本質的に究めていくと、値引きせずに売り切れるようになり、お客様も喜んでそれを買いに来てくれる。すると、売り切れがネガティブな現象ではなく、本当に価値ある商品をみんなが買ってくれた結果なのだという認識に変わると思うんです。

松村:外食業界では、一日100食しか作らず、売り切れたら閉店する料理屋が話題になりましたね。たしかにスーパーマーケットでも十分想像できます。

萩原:また、欠品するとすぐ「チャンスロス」と捉えがちなのですが、仮にもっと多く作っても廃棄が増えるだけの可能性もある。ですので、きちんと数字で示して、何が最適解なのかを本部も店舗もデータで見ていけるような仕組みが必要だと思います。

こうした取り組みの前提には、美味しい食事をきちんとお届けするというスーパーマーケットの使命があります。お客様のニーズに合わせた商品構成があり、できたてのものや保存できるもの、冷凍食品など、「食事」というカテゴリのなかで細分化された売り場構成になっていくでしょう。スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストアなど、食品を提供する小売業態ごとに上手く役割を分担していけば良いのです。

トレードオンのために最初に踏み出す企業になる

松村:企業によっては、サステナビリティは「やらねばならぬこと」であって、利益とトレードオフ的な捉え方をしている場合もあると聞きます。萩原さんの場合は、サステナビリティは戦略的合理性が高いと考えて取り組んでいますよね。何かきっかけがあったのでしょうか?

萩原:一番のきっかけは、移動スーパー とくし丸ですね。最初は「地域での買い物に困っている方の役に立てればいいな」という気持ちで始めました。ただ、規模が大きくなるにつれて我々が出せる台数なんて限られているなと思い、最近では他社の社長にもどんどん増やしていこうと勧めています。

想いがあっても、自分たちだけで解決できないことがあります。そんなときには誰かが前に踏み出してトレード“オン”に変えていく必要があると思うんです。そうした意味で、デリシアは一歩踏み出す企業になりたいと思っています。

松村: 最初にチャレンジする企業になる、ということですね。

萩原:そうです。デリシアだけでは世の中よくなりませんし、 流通業界全体でそういう取り組みが一つひとつできればいいと思ってます。その上で、ちょっと先を行けたらいいなと。

松村: こうした取り組みを始めていくとき、デリシアの皆さんは「よしやろう」とすぐに賛同されたんですか?

萩原:最初は「それ何ですか?」ってなりますよ(笑)。エシカル消費の普及活動のときも、まずは長野県での取り組みなど背景の勉強会から始め、推進チームを作って進めていきました。特に専門部署があるわけじゃないんです。

松村:そうした変革は、数値的目標で強く引っ張っていくというよりは、ちょっとずつ背中を押して草の根的な変化を起こしていくというスタイルだったのでしょうか。

萩原:スタートはそうですね。ただし、それをビジネスの機会と捉えることができないと持続は厳しいです。社会の役に立っていることが検証されないと、「ただ良さそうなこと」で終わってしまいます。だからこそ数値目標を持つことは非常に大事です。成果を可視化することによって、 どれくらい社会のためになっているかわかることが持続的な活動に繋がっていきます。

変わる時代のなかでポリシーを決める 明日のスーパーマーケットへ

松村: 最後に、萩原さんからのメッセージをお願いします。

萩原:サステナビリティや気候変動というテーマは地球規模の大きい話になりがちですが、決してそれだけじゃないと思うんです。我々デリシアも地域密着企業なので、その地域のお客様の課題にひとつずつ向き合って解決できることが大事だと考えています。

食品ロスを含む課題解決にどれだけ貢献できるか、お客様との関係を踏まえて企業側の考えを示す必要があると思います。きちんとしたポリシーを持っているお客様も少なくないですし、企業側もしっかりポリシーを持って関係作りをする必要がある時代です。

こうして地域と店とお客様が繋がり、地域でできるサステナビリティやSDGsの取り組みが広まっていけば、結果的に社会全体が変わってくると思います。それを信じて、今取り組みを進めているところです。

松村:ありがとうございます。マスマーケットの問題を、それぞれのローカルの視点から解決していこうという意志を感じます。素晴らしいですね。

萩原:いやいや、なにか革新的な話ではないんですよ。その地域のためにできることからひとつずつやっていく、そこに尽きると思います。同じことの繰り返しだったスーパーマーケットのあり方に、変えるべきことが実はたくさんある。こうしてハルモニアさんとのご縁をいただいたなかで、色々と見方を変えなきゃと気付かされています。そういった意味で本当に感謝していますので、今後ともよろしくお願いします。

 

(撮影・編集:植原 愛)

■株式会社デリシアとの協業で活用しているサービスについてはこちら:「Harmoniaロスフリー」

食品ロス削減を目指した新サービス 「Harmoniaロスフリー」を提供開始

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