ハルモニアは、2024年4月より、小売業界の複雑な課題に向き合うリーダーを支援するプログラム「次世代経営リーダーアカデミア」を開催してまいりました。
初開催となる本プログラムには、㈱デリシア、東芝テック㈱、㈱マルエツ、㈱ヤオコー、㈱10X、の5社より10名の方にご参加いただきました。
本レポートでは、全4回のプログラムの概要と参加者の声を紹介します。
次世代経営リーダーアカデミアとは
スーパーマーケット、コンビニ、ディスカウントストア、GMSなどの小売業界は人々の生活を支え続ける一方で、人手不足・物流危機・インフレーション・サステナビリティなど、多くの課題に直面しています。
しかし近年、様々な機会で小売企業経営層の皆さんからお聞きするのは「優れた戦略やテクノロジーがあっても、それを実行に移せる社内人材や組織がないと変革は進まない」という根深い課題意識です。そこでハルモニアは複数企業合同での人材開発・研修プログラムを企画し、第一期を今年2024年4月より開催いたしました。
学びのテーマ
プログラムにおいて学ぶテーマの策定に際してまずは小売企業が短期・長期で向き合う課題を、顧客、社会・環境、業界、社内の4軸で整理した課題マップを作成。全体を俯瞰した共通の視点をつくり、議論のきっかけとなることを企図して各回に以下のようなテーマ、キーワードを設定しました。
第1回:次世代経営の全体観
第2回:価格戦略
第3回:サステナビリティ
第4回:組織変容・チェンジマネジメント
第1回:次世代経営の全体観
業界のこれからを考えるにあたって、まず大切なのは視界を足元から未来へと拡げることです。
小売業界の最新事例がプレゼンテーションされるNRFやCESからの情報や、ハルモニア代表の松村が各国でリサーチしてきた企業動向を紹介。それらを俯瞰的に整理した「戦略のループ」を提示しました。ネットスーパーやアプリ、新型店舗などを個別の施策視点ではなく、データや価値向上力の積み上げ、それを支える組織開発や収益再投資のループをいかに構築するかという視点の提案です。
ひとつのモデルケースを議論したうえで、次はより現実的に、2030年代の日本をイメージしていきます。
人口動態の推移などに影響され、日本の食品や小売業界はこれまでと大きく異なる経営環境へと変化していくことが予測されています。「食料品市場規模は毎年数千億円ずつ減少していく」「労働需要の約1/4が満たされなくなる」「それらの人口・市場減少は地方ほど顕著に進んでいく」「同時に、上場企業を中心にコミットしている脱炭素目標も経営の前提になっていく」といった予測・データは、経営や組織のあり方を大きく変容させる必要性を強く示唆しています。
足がすくむような業界のこれからに向き合う次世代リーダーに提案したのが、「10年経営」そして「ペースレイヤリング」という概念・考え方です。
「10年経営」とは、四半期の目標や3ヶ年の中期経営計画のスコープを越えて、より長期の視点をもって経営にあたることです。先進事例として紹介したWalmartやKrogerなどの企業も、本格的な取り組みが実を結ぶまでには10年近くの時間を要してきました。
「ペースレイヤリング」とはスチュアート・ブランドが示した、世界には自然や文化のようにゆっくりとしか変化しない層と、流行のようにすぐに変わる層があるという捉え方です。あまりビジネス文脈では使われないフレームですが、これを経営視点に当てはめ、自社の状態をレイヤー構造で観察することを提案。表層的なニュースや戦略に目が行きがちだが、真の差異は最も根深いカルチャー(組織文化)にあるのではないか、といった議論が盛り上がりました。
第2回:価格戦略
40年ぶりのインフレとなり、小売業界も大きく方針転換を迫られているのが価格戦略です。
コストベースや競合ベースの観点だけでなく、提供価値に合わせた値付けを行う「バリューベースプライシング」の概念を掘り下げました。価格戦略を高度化するだけでなく、価値を高め、顧客にもその価値を知ってもらう努力をし、ともに成長する「価格戦略のトリプルループ」のコンセプトを提示。
強い小売チェーンはこのループの積み重ねで今のポジションを築いてきた、という気付きのコメントが挙がりました。
ハルモニアがお会いしてきた多くの企業において、緻密な価格戦略を組み立てる経験不足や、実行できる組織・人材不足の課題は共通して聞かれます。価格について改めて議論するところから始めて、仮説検証のサイクルが自走していくまでのステップをフレームワーク化したものが「価格戦略を軌道に乗せる5ステップ」です。
狭義のプライシングの高度化と、広義のブランド・組織面からのアプローチとの双方が必要であるとの議論が交わされました。
第3回:サステナビリティ
次の10年間を考えたときに、業界の最重要テーマのひとつになるのがサステナビリティです。
ただ、サステナビリティという言葉のままではイメージが掴みづらいためか、なかなか企業アクションに繋がっていきません。「15年後の事業継続への課題は何か?」などと問いを変えることで、具体的な事業課題や機会への落とし込みを促進し、アクションを触発できる可能性が見えてきました。
サステナビリティへの向き合い方も、世界トップブランドの例を見ていきなり大きく捉えすぎてしまうと、身構えてしまいなかなか踏み出せません。まずは顕在的な課題として捉え、その解決に一歩ずつ取り組むことがリアリティのある始め方ではないでしょうか。
第2回で触れた価格戦略や商品価値の提案力の論点とも連動し、企業が掲げる理念・ブランドと実際の体験を一貫させることがひとつの目標になっていくという提示に共感が集まりました。
第4回:組織変容・チェンジマネジメント
将来の事業のあり方や、新たな戦略・施策を描いたうえで、最も重要になるのがそれを実現するためのチェンジマネジメントです。
時代の変化に合わせた新しい組織のあり方として「次世代経営リーダーの組織ビジョン」を例示し、変わることが常態化した組織文化を築くことをひとつの目標と位置付けました。
さらに、各社の具体的な課題を構造化し、組織変容のアプローチを考える「行動変容ワークショップ」を実施しました。変容は一朝一夕にできるものではありませんが、全4回の論点をつなぎ合わせ、参加者それぞれが新しいリーダーとしての戦略とファーストアクションを整理していくことができました。
ワークショップのフレームワークについてはこちらのレポートもご参照ください。
サステナビリティから組織開発まで〜「行動変容」をデザインするワークショップを開催
実施後アンケート
初めての実施となった「次世代経営リーダーアカデミア 第1期」ですが、ありがたいことに高くご評価をいただきました。
各回の実施後にはアンケートに回答いただき、セッションの内容にフィードバックしていきました。全体を通じての参加者の推奨意向度は8.71(0~10点評価の平均)となり、今後もより幅広い部門や世代の人材を参加させていきたいとの意向を頂戴しています。
参加者の声(抜粋)
「常に中長期の課題を意識しているつもりでしたが、10年経営・ペースレイヤリングという考え方に触れ、もっと広い視野で戦略を考えなければ変革には程遠いと感じました。社外の方の意見を聞くのも新鮮で大変有意義な時間でした。」
「トリプルループの考え方は、プライシングの戦略をわかりやすく示していただき目指すべき方向性の考え方がすんなりと入ってきました。」
「サステナビリティという言葉ではなく、15年後(中長期)の事業継続に必要か否かという問いかけは社内でも響く内容だと感じました。わかりやすい、現在の業務に結び付くテーマから取り組みを始めることで徐々に意識や思想の変化を起こせるようなプロセスを考えてみたいです。」
「サステナビリティの5サークルにキーワードを落とし込む事で、行為と効果、持続可能な経営に対して、優先すべき事項が明確となり、非常に理解しやすい。グループディスカッションも非常に有意義で、自分の深層で考えている事を浮かび上がらせる事ができました。」
「一緒に参加されたメンバーに恵まれたと感じます。刺激と導きを頂き、充実した研修となりました。」
ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
今後のお知らせ・お問い合わせ
「次世代経営リーダーアカデミア」は、今回の経験を踏まえて内容や規模、参加者属性、テーマ等を見直しながら、継続的な開催を目指していきます。
また、企業の垣根を越えた学びの場作りや、個別企業の変容を支援する研修・ワークショップ等の取り組みも積極的に行いたいと考えています。
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