7月 16

物流業界のダイナミックプライシング:世界の物流企業の取り組み

新型コロナウイルス感染症による需要の急変動もあり、物流領域でのダイナミックプライシングにも注目が集まり始めています。今回は、「物流 ✕ ダイナミックプライシング」について、世界の最新動向をまとめてみました。

世界の主要物流企業の取り組み

これまで、国内の物流企業におけるダイナミックプライシングに関するトピックはさほど多くありませんでした。一方、海外の主要企業では、ダイナミックプライシングを含む価格最適化の検討や実験が早期から始まっています。コロナ禍による急激な需要変動やコスト増を受け、この流れは更に加速していくと思われます。

DHL(ドイツ)

ドイツ大手DHLは早期から価格最適化への取り組みを始めているようであり、2012年にはフランスのスタートアップOpen Pricerとの間で輸送費価格最適化の実証実験を行っています。

具体的には、Open Pricerが提供するソフトウェアによる出荷予測や最適輸送費のレコメンデーションを元に、将来収入や収益性等のシミュレーションを行い、個別の顧客との費用交渉に役立てる等を行っているそうです。

参考:https://www.openpricer.com/blog/press-releases/dhl-express-successfully-implements-open-pricer-software-to-support-its-global-pricing-worldwide/

UPS(米国)

感染症対策のための外出制限を受け、特にtoC領域での需要が増えるなど、需要変動が著しくなっています。UPSでは、第一四半期に、米国内の平均荷物量が昨年度から8.5%も増加。一方で、toC領域では小型かつ大量の荷物を多数の住居にそれぞれ搬入する必要があるため、追加的な費用がかさみ、利益を圧迫しています。

こうした急激な需要の上昇や需要者の変動に対応するため、UPSでは、顧客ごとにそれぞれ価格を随時見直していくとのことです。

このような流れを受け、今年4月のメディアのインタビューにて、当時CEOのデビッド・アブニーが「他の領域同様、〔物流領域でも*〕ダイナミックプライシングを取り得る」(*筆者注)と発言しており、ダイナミックプライシング導入が示唆されています。

参考:https://www.supplychaindive.com/news/coronavirus-ups-pricing-changes/576895/

FedEx(米国)

米国大手FedExでも、価格最適化の取り組みが進んでいます。

例えば、ダイナミックプライシングそのものではないものの、同社は輸送費の一部について、「Dynamic Fuel Surcharge」という価格変動システムを採用しています。同システムは、航空燃料費の変動に応じて、タイムリーにサーチャージを増減させるものです。毎週の燃料費の増減を踏まえ、顧客への通知なく、毎週サーチャージの調整が行われています。

参考:https://www.fedex.com/en-ie/shipping/surcharges.html

世界のスタートアップの取り組み

近年、米国やヨーロッパを中心に、物流領域でのダイナミックプライシングを提供するスタートアップが勢いを増しています。具体的には、以下のようなスタートアップが各国でダイナミックプライシングを推進しています。特に、Uberのようなメジャープレイヤーの動向には要注目です。

Uber FreightとBlue Yonder(米国)

Uber Freight(https://www.uber.com/ja-JP/newsroom/uberfreight/)は、Uberが近年開始した、運送貨物と運送会社のマッチングプラットフォームです。

2020年7月10日付のニュースで、Uber Freightとサプライチェーンマネジメントを専門とするソリューションベンダーであるBlue Yonderの提携が発表され、Uber Freightへのダイナミックプライシングの開発・提供が行われることとなりました。

これにより、今後、リアルタイムの市場価格での荷物輸送依頼等が可能になっていくようです。

参考:https://roboticsandautomationnews.com/2020/07/10/blue-yonder-and-uber-freight-partner-to-develop-dynamic-pricing-discovery-solution/33926/

Banyan Technology(米国)

米国のBanyan Technology(https://www.banyantechnology.com)は、2019年に、地域、荷物の特性や顧客の行動等を考慮して運賃を算出する、APT連携可能な物流向けダイナミックプライシングツール「Intelligent Pricing」をリリースしました。

また、2020年7月には、LTL(小口トラック貨物)輸送者用にダイナミックプライシングの提供を行うツール「Insights」を発表しました。

同社は既に、物流業者2000社と連携し、34,000以上のユーザーを擁するとのことです。

参考:https://www.logisticstechoutlook.com/news/banyan-technology-launches-a-dynamic-pricing-tool-for-the-freight-industry-nid-557.html

https://www.joc.com/trucking-logistics/ltl-trucking-logistics/ltl-digitization-suggests-more-dynamic-pricing_20200710.html

Everoad(フランス)

フランスのEveroad(https://www.everoad.com/en/)は、荷物の送り主と配送会社のマッチングプラットフォームです。Uber Freight同様、EUの物流版Uberといった位置づけです。同社は、マッチングプラットフォーム上で、独自開発のアルゴリズムによる、集荷・配送の日時などを考慮したダイナミックプライシングの提供を開始しています。

同社は既に、物流業社2,500社以上、130,000台以上のトラックと提携しているとのことです。

参考:https://support.everoad.com/hc/fr/articles/360000315758-How-Everoad-calculates-the-price-of-an-offer-

Open Pricer(フランス)

Open Pricer(https://www.openpricer.com/)は、主に物流領域でダイナミックプライシング等のプライシングソリューションを提供するスタートアップです。

FedExやDHLがクライアントとされ、DHLやその他の物流企業との間で価格最適化の実証実験を行うなどしています。同社のブログでは、物流領域のダイナミックプライシングについて繰り返し詳細に解説しています。

参考:https://www.openpricer.com/price-policy-setting/pricing-challenges-for-parcel-networks-in-asia/

https://www.openpricer.com/price-policy-setting/why-should-parcel-networks-prepare-for-dynamic-pricing/

https://www.openpricer.com/price-policy-setting/revenue-management-for-parcel-freight-networks-part-1/

Freightos(シンガポール)

Freightos(https://www.freightos.com/)は、高度なダイナミックプライシングが浸透した航空旅客業界と異なり、いまでも電話やEmailによる価格交渉・決定が主流の航空貨物業界をデジタル化し、ダイナミックプライシングを持ち込もうとしています。

2019年にAir France KLM Martinair CargoがFreightosのシステムによりダイナミックプライシングに基づく航空貨物運賃を導入するなど、航空貨物領域にもこの流れが到来しつつあります。

参考:https://techcrunch.com/2018/09/17/logistics-startup-freightos-raises-44-4m-series-c-led-by-singapore-exchange/

https://www.freightos.com/wp-content/uploads/2019/04/20190423-PR-AFKLMPCargo-Freightos-WebCargo-final.pdf

おわりに

このように、近年、物流主要企業でもダイナミックプライシング等の価格最適化が進みつつあり、それをサポートするスタートアップも世界中で活躍し始めています。

これまではダイナミックプライシング導入があまり進んでいなかった物流領域でも、急激な需要変動への対応がきっかけとなり、ダイナミックプライシングの機運が高まっていると考えられます。

TEXT: Hiroshi Watanabe グロービス・キャピタル・パートナーズ インターン(株式会社空の支援中)