10月 01

駐車場にもDXは到来するか?予約制に続く駐車場の未来【考察・モビリティ進化論 中編】

この記事は、モビリティや駐車場の未来とプライシングについて考察するモビリティ進化論シリーズの一部です。

次に駐車場の10年後の未来を想像してみましょう(前章でご紹介したマイクロソフト社のMaaSレベル1~4に則ります)。結論としては、駐車場は他のモビリティに比べると成熟度は低くレベル1~2となります。

駐車場の進化レベルの変遷

レベル1「経路検索」

自動車移動の経路検索は長らく車載カーナビが主流でしたが、昨今スマートフォン上の経路検索アプリのシェアが向上しています。駐車場に関するカーナビの機能としては以下が挙げられます。

  • 目的地周辺のコインパーキングの位置・名称・料金・その他条件が検索できる
  • 目的地周辺のコインパーキングの満空情報が検索できる
  • 目的地周辺にある予約制駐車場の料金・位置・満空情報が検索できる
  • おすすめの駐車場が推奨される
  • 行き先の駐車場までの経路を検索できる

2020/9現在、各社の提供するカーナビに実装されているのは以下となります。

ここで、特筆すべき点は以下2点となります。

  • カーナビが料金や満空情報を元に駐車場を推奨することはない
    →鉄道やバスと異なり、駐車場は推奨されません。推奨には各社の料金体系や満空情報が必要ですが、駐車場事業者によってはデータ管理していないため、現状では実現のハードルが高めです
  • 一部のカーナビアプリでは予約制駐車場をコインパーキングと横並びで検索可能
    →これによりアプリの利用者は両者を断絶なく利用候補に入れることが出来ます

レベル2「予約・決済」

駐車場は長年時間貸しか月極が主流でしたが、数年前より予約可能な駐車場が出現しました。特徴としてはアプリ上で予約・決済が可能なこと、アクセスが悪い土地も活用しうることです。

事業者としては、ベンチャーではakippaや軒先パーキングが有名ですが、大手駐車場事業者からタイムズ(タイムズのb)、三井不動産(toppi)、日本パーキング(よやくる)、他領域からの参入としてソフトバンク(BLUU)、NTTドコモ(トメレタ)などがあります。利用する際は各社のアプリで会員登録が必要です。予約・決済システムは個社ごとに独立しており、複数社にまたがる予約システムはない模様です。

一方、コインパーキング事業者は従来型の拠点と並存させる形で、駐車場の一部を予約制事業者に賃借し、新たな可能性を模索している模様です。ただし従来型の拠点でもキャッシュレス(クレジットカード・交通系ICカード・QR決済等)への切り替えを進めている企業がほとんどです。ただしそれには多額の投資が必要となるため進度にばらつきがあります。

また精算機ではなくアプリを用いたオンライン決済システムを導入する場合もあります。NTTドコモ「Peasy」やIMJ「SmooPA」などが該当します。

レベル3「需給予測・価格調整」

駐車場における需給予測や価格調整は昨今注目が集まりつつあります。レベル1や2を充足する予約制駐車場はいち早く駐車場の価格調整(ダイナミックプライシング)に取り組んでいます。例えばakippaは2019/11の段階で以下のように語っています。

一方従来型のコインパーキングでは柔軟な価格変更が困難です。大きな原因は料金情報がオンラインで完結しない、すなわち現地の料金看板を変更する手間がかかることです。

レベル4「都市計画」

昨今話題のスマートシティにおいては、MaaSも中核を担う要素として語られています。自動車のCASEを前提とすると、自動車がユーザーニーズに合わせて最適に割り振られるため、駐車場は格段に需要が減少することが想定されます。ただしそれは5~10年という長いスパンの話となります。

次に起こる駐車場の進化

以上を鑑みると、コインパーキングはレベル1~2、予約制はレベル3に手を伸ばしている段階であることが分かります。さて、それではレベル4まで進んだ駐車場の将来はどのような姿になるのでしょうか。

今後3~5年後の駐車場では、以下の大きな変化が考えらます。

  • 経路検索アプリがユーザーの希望に沿った最適な駐車場をレコメンド
  • コインパーキング / 予約制という区切りがなくなり、どんな駐車場でもアプリ上で予約・決済
  • ダイナミックプライシングにより価格が頻繁にアップデート
  • フラップや料金看板、精算機といったハードウェアが一掃される
  • 買い物や観光などの停車後の行動までアプリがシームレスに案内

この状況では誰が駐車場業界のwinnerになるのでしょうか。

一つは上記の駐車場の未来像にいち早く近づけた事業者です。従来型のコインパーキング事業者は予約制駐車場からシェアを一方的に奪われることが予想されます。さらに人口減少やMaaS進展による自家用車の減少も起きる中では、プライシングをうまく行い取るべき利益をしっかり取ることが非常に肝要です。

もう一つは駐車場データを握る経路検索プラットフォーマーです。今後は経路検索アプリに掲載される駐車場に特に利用が集中すると考えられるので、駐車場事業者各社がプラットフォーマーにデータを渡す強いインセンティブが働きます。プラットフォーマーはそのデータを元にユーザーの移動体験をデザインするイニシアチブを握ることになるでしょう(後編に続く)。

TEXT:水野隼輔 株式会社空 モビリティ事業開発責任者