「ビジネスの変革と持続可能性」をテーマにしたWEBセッション連載 ”Dynamism Talk” 。食品ロス、交通、広告等の領域の第一線で変革を推進するイノヴェーターを招き、対談形式で「ビジネス変革と持続可能性」について議論していきます。
Vol.1のゲストは、2021年夏からハルモニアとタッグを組み新規事業に取り組む東芝テックの平等弘二氏。ハルモニアの松村大貴と共に、小売業界の未来、食品ロス削減に向けての具体的な取り組みについて本音で語り合いました。その模様をお届けします。
<平等 弘二氏 プロフィール>
1964年2月生まれ。東京都目黒区出身。1987年東京電気株式会社(現:東芝テック株式会社)に入社。 入社当初は東芝への2年間の出向も含みスタッフ部門を5年間経験後、17年間 専門/飲食チェーン店向 けPOSシステムの営業に従事。2011年 POSシステムの商品企画部門に異動後、2015年よりリテー ル・ソリューション 商品・マーケティング統括部⻑。2018年執行役員就任 モバイルオーダーのスタ ートアップのShowCaseGIgへの出資、ベリトランス(現 DGFT)とのJV であるTDペイメント設立。 2020年同事業本部 副事業本部⻑を経て、2021年より新規事業構築の加速を目的に新規事業戦略部を 社⻑直轄部署として設立。新規事業戦略部⻑として4つの室(投資戦略企画室・CVC推進室・データ サービス推進室・スマートレシート推進室)を牽引する。
<松村 大貴 プロフィール>
1989年生まれ。ヤフー株式会社で米国企業との事業開発やブランディング、復興支援に携わった後、 2015年にハルモニア株式会社を創業。インターネット広告の仕組みから着想を得てダイナミックプ ライシングサービスを立ち上げ、企業へのコンサルティング、ビジョンメイキングを行っている。ビ ジネスのすべてをダイナミックにし、地球のサステナビリティを向上させることがミッション。
東芝テックがなぜ新規事業に、そして食品ロスの課題に取り組むのか
松村:東芝テックさんはかなり本気で新規事業に取り組んでいるなと感じています。どういう思いで取り組まれていらっしゃるのでしょうか?
平等:長年POSシステムをメインにリテール事業をやってきましたが、今後もPOSを中心として右肩上がりでずっと成長を続けられるかと言うと、将来的には厳しいと感じています。POSに関しては国内シェアが非常に高く、去年が48%、一昨年が58%と19年連続トップシェア。それだけ聞くと安泰じゃないかと思われるかもしれませんが、最近はチェックアウトスタイルも変わりつつあります。10年以上前から、お客様自身でスキャン・会計をするフルセルフレジ、ここ5年位で従業員が商品をスキャン・お客様が会計をするセミセルフレジが消費者にも浸透し出てきました。最近ではカートに搭載した端末やお客様のスマートフォンでスキャン・決済するタイプも一部導入されてきています。こうなってくると、POSってもはや要らなくなってしまうんです。今まではハードとソフトを提供することで売上を作ってきましたが、これからは従来型のビジネススタイルから完全に脱却し、転換を図っていかないとまずいなと。
松村:基本的には危機感から始まっているということですね。我々もいろんな大手企業さんとご一緒させていただくのですが、東芝テックさんは危機感を公表されているのがすごいなと思っていて。東芝テックのどの方にお話を伺っても「変わらなきゃいけない」とおっしゃる。従来型のビジネスはトップシェアだけれども、会社全体として危機意識がしっかり共有されているんです。だからこそ、新規事業に前のめりに取り組まれていらっしゃるのでしょうね。
平等:もう一つの理由としては、POSの提供だけでは小売・飲食店の抱えている課題の一部しか支援できないという点があります。これから小売・外食の経営課題や店舗における課題はどんどん変化していくでしょう。その中で我々は会計周りだけの支援ではなく、お客様と一緒に経営課題を解決するパートナーになるべきだと考えています。POSを起点に領域を拡大し、コスト削減だけでなく、売上拡大に貢献するようなサービス・ソリューションを開発していきたい。今回のハルモニアとの事業提携もそうですが、あらゆるデータを活用するダイナミックプライシングにも軸足を向けていきお客様の課題解決の一助になりたいという事です。
松村:なるほど。東芝テックさんは食品ロスの課題にも積極的に取り組まれているようですが、これはなぜでしょう?
平等:先程お話したのはリテール業界の課題でしたが、食品ロスはリテール業界の課題であると同時に、社会全体の課題でもあります。弊社としては、小売の課題だけでなく、社会課題の解決にも企業として貢献していきたいと考え食品ロス低減にもきちんと取り組んでいきたいです。
松村:小売・飲食業は元々利益率の高い業界ではないですからね。その中で食品ロスをどう減らしていけるのかというのは、どの企業も抱えていらっしゃる課題の一つですね。
世界と日本の食品ロスについて知っておきたいこと
松村:ここで、世界と日本の食品ロスについて知っておきたいことを簡単に紹介していきます。
食品ロスは、SDGsにも挙げられている世界的な重要課題の一つです。
なぜ取り組まなくてはいけないのかというと、理由は大きく2つあります。世界では9人に1人が飢餓状態で、食品そのものが足りないということ。そして、食品ロスが温室効果ガスの原因にもなっているということ。飢餓の解消と気候変動対策の両面において、食品ロス削減は必須のテーマになってきているんです。
日本では2019年に食品ロス削減推進法が制定されており、国の目標としては2000年度の水準と比べて2030年度までにロス量を半減することが挙げられています。日本の食品ロスは、最新の推計で年間612万トン。一人あたりに換算すると年間48kg、1日約130g捨てられているのが現状です。事業における食品ロスは、食品製造業>食品外食業>食品小売業>食品卸売業という順に多く発生しています。この辺り、平等さんはどう見ていますか?
平等:ハルモニアさんと一緒に取り組んでいくのは、まず外食と小売の部分になるでしょう。ですが食品ロス全体を減らすことを考えると、製造や卸売の分野にも貢献できるようにしていきたいですね。そのためには、需要予測を含めた発注の精度向上なども含めてやっていくことが必要だと改めて感じています。
松村:ここで、海外における食品ロスの取り組みを2つ紹介させてください。1つはカナダに本社を置くFlashfoodというサービス。
スーパーやパン屋で期限が近くなった商品を店舗の人が写真に撮ってアプリに登録すると、店舗の近隣に住む人がそれを知って、値引きされた商品を店舗に買いに来てくれるというものです。面白いのは、4人に1人はこのサービスがきっかけで新しいお店に行くようになったり、店内でついで買いをするということ。
もう1つは、イスラエルの企業のWastslessというサービス。
これはアプリ経由ではなく、店舗の棚で期限別に価格が変わるというものです。期限別の在庫管理、電子棚札導入、さらにこれらがPOSと連動することによって実現している仕組みで、我々が目指していくポイントがここにあるのかなと思っています。
平等:日本でもやるとなると、期限管理が一番重要ですよね。デジタルな期限管理ができるようにならないと、なかなかこういうサービスはできません。そのソリューションをいかに軽減して作れるかというのが重要なポイントだと思います。
小売におけるダイナミックエコノミー
〜これからの二社の取り組み〜
松村:ハルモニアはダイナミックプライシングの会社と言われることが多いのですが、ダイナミックにしたいのは実はプライスだけじゃないんです。プライスの手前の流通、製造、物流、人の移動も含めて柔軟に動的にしていくことを目指しています。その一つが小売で、店舗だけではなく、前後プロセスを含めてどう滑らかにしていくかを考えていきたいと思っています。平等さんは小売領域を長くやってこられましたが、小売におけるシステム面・組織面の課題はどんなところにありますか?
平等:小売だけではなく企業は全てそうだと思いますが、大手になればなる程、様々な部門が縦割りになっているんです。我々がPOSシステムの話をするとき、これまではIT部門や情報システム部の方々と話しをしてきましたが、最近は経営企画、営業、マーケティングなどいろんな部署の方とお話しをしていかないと物事を先に進めない事が増えてきています。みなさん立場によって意見が違うことも多く、ダイナミックエコノミーのキーワードの一つ”連動”ができるようになることも今後の課題ですね。
松村:東芝テックさんとハルモニアの取り組みは2021年8月に始まったばかり。まだまだ仮設段階のものが多いのですが、平等さんの視点からプロジェクトやテーマについてお話しいただけますか?
平等:まずは小売・飲食店に向けてのプライシングをやっていきたいと思っています。既に取り掛かり始めているのがスーパー。特に一番食品ロスが出ている惣菜が取り組みやすいかなと。惣菜であれば、時間帯別に段階的な値引きができます。最終的には時間帯だけでなく日別の管理もしていく必要があるので、その期限管理が大きな課題です。
外食においては、曜日や時間帯で価格を変えるというのは昔からハッピーアワーなどで取り入れられていますよね。でも今はリアルタイムで空席情報を把握することができるので、その情報を使ってリアルタイムで価格を変動したり、予約システムと連動させて販促やプロモーションに繋ぐような取り組みもできるだろうなと考えています。ケーキ屋さんやテイクアウトのお寿司といった形態の店舗も取り組みやすいと思うので、そういうところもぜひ松村さんと一緒に進めていけたらなと。
松村:そうですね。昔は消費期限が近くなってきているから値引きするということに対して、負のイメージがあったかもしれません。でも最近はスターバックスでもこうした取り組みが始まっていて、だいぶポジティブなテーマになってきているんじゃないかと思います。食品ロスを減らすためにプライシングを工夫しているというのは、小売企業にとってプラスに捉えてもらえるような取り組みになってきているのではないでしょうか。
平等:ダイナミックプライシングといっても、単なる値引きのツールとして使うのではなく、ちゃんと利益を上げられるようにしていくというのが正しい使い方だと思っています。
松村:特に日本の外食って海外と比べて安過ぎますよね。もちろん需要と供給によって変動する部分もありますが、基本的には高付加価値のモノや、高い共感が集められるような企業の商品・サービスが高く評価され、適切な価格で販売されていくべきなんじゃないかなと。
平等:いろんなモノの原価が上がっている中、日本の企業って原価を転嫁して値上げしないんですね。そうした我慢の文化があるとよく言われますが、頑張って耐えるよりも、需要があるところはきっちり価格を上げていく。そうしたプライスに対する文化も一緒に盛り上げていければいいなと思います。
松村:確かに。ロスを減らしたり日々の粗利を上げたりといった足下の課題解決に留まらず、リテール領域の企業やその先の消費者の方も含めてメリットを作りながら、プライシングやプロフィットに対する文化作りをしていくことも大きなテーマですね。
東芝テックさんとの協業プロジェクトでは、今日挙げたテーマに限らず、プライシングや食品ロスを一緒に解決していきたいパートナー企業さんを募集しています。これから実際に店舗を活用した実証実験や、新しいサービスの試験に取り組んでいくので、そこにアイディアをいただけるリテール企業のみなさんがいらっしゃったらぜひお声がけいただければと思います。一緒に業界課題の解決に取り組んでいきましょう!
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お読みいただきありがとうございました。
今後もさまざまなゲストをお呼びしてDynamism Talkを開催していきます!乞うご期待ください。
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