10月 29

Dynamism Talk Vol.0 凝り固まったビジネスでは、持続不可能だ|イベントレポート

「ビジネスの変革と持続可能性」をテーマにしたWEBセッション連載 ”Dynamism Talk” 。食品ロス、交通、広告等の領域の第一線で変革を推進するイノヴェーターを招き、対談形式で「ビジネス変革と持続可能性」について議論していきます。

記念すべきVol.0ではユーザベースの菅原弘暁氏をゲストに、ハルモニアの松村大貴と「ハルモニアとは」「ダイナミックエコノミーとは」「ハルモニアが目指すダイナミックエコノミーの世界とは」の3つをテーマに議論を展開。その模様をお届けします。

<菅原 弘暁氏 プロフィール>

1988年1月生まれ。神奈川県鎌倉市出身。大手総合PR会社オズマピーアールで外資メーカーや官公庁などの広報戦略の立案と実行業務に従事。2014年にPR Tableを共同創業して、企業のコーポレートブランディングを支援するSaaSプロダクト『talentbook』を立ち上げ。シリーズCまで事業と組織作りを牽引する。2018年には国内初となるPublic Relationsの大規模カンファレンスを主宰。2021年7月よりユーザベースに入社。コーポレートブランディングを所管しながら、同グループの全国展開を目指すプロジェクト『Re:gion』を立ち上げる。

<松村 大貴 プロフィール>

平成元年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学法学部を卒業後、ヤフー株式会社に入社し、アドテク事業に従事。CSRやブランディング等を経験して退社後、2015年にハルモニア株式会社(創業時社名:株式会社空)を創業。2016年にデータの取り込み・分析・価格決定を高速化するダイナミックプライシングシステム「MagicPrice」の提供を開始。宿泊や交通業界を中心に提供。2021年からはプライシング戦略のコンサルティング事業を強化し、自身もコンサルタントとして小売業界を中心にサービスを提供。世界中の価格をダイナミックに最適化し、経済合理性とサステナビリティ向上が両立する世界を作ることがミッション。

 


 

ハルモニアとは

菅原:最近、社名が「空」から「ハルモニア」に変わりましたよね。 なぜですか?

松村:2015年の創業時の事業と今の事業がどんどんズレていったから、というのが理由です。我々は2020年〜2021年にかけて事業のピボットをしたのですが、新しい事業の形や伝えていきたいコンセプトが全然合致していない状態になってしまったんです。そういった課題がある中でミッションステートメントも再定義できたので、そろそろ名前が体を表すようにしようよ、と。

菅原:コロナ禍を経て各社いろんなことがありましたよね。それでは、ここで改めてハルモニアとしての想いを聞かせてください。

松村:「ダイナミックな変革を世の中にもたらしていくブランドでありたい」というアイデンティティの再定義を行い、それを社名やロゴに込めました。赤と青の2つの波の融合を表している新しいロゴは、GOのクリエイティブチームの皆さんと一緒に作ったものです。

なぜ“ダイナミック”なのか。今は世の中の変化スピードが上がっていて、各業界の働き方や企業の戦略など、対応しなくてはいけない側の変化が遅れている状態であると感じています。硬直的な仕組みをそのまま伸ばしていくというモデルでは、たとえ最適解が一度得られたとしても継続できないと思うんです。地球の持続可能性のレベルで、人類がこれまでの100年の経済活動を続けていてはもうダメだということに気付いたじゃないですか。今までのやり方は持続不可能であるということがファクトとして出ているならば、変えなきゃいけない。さらには変えたものを固定するのではなく、変え続けなきゃいけない。そういった想いが根源にあります。

菅原:ある意味、すごくスタートアップらしいですね。

松村:社名変更と共に、ミッションステートメントも新たに策定しました。「ビジネスのすべてをダイナミックにし、世界のサステナビリティを向上させる。」というのが今のミッションです。我々が単独でフードロスを減らすとか、物流の問題を全部解決するといったことは無理かもしれません。でも、各業界のイノベーティブな企業の皆さんと組むことができれば変えていけると考えています。実際に、一部の企業さんと事業立ち上げという形でプロジェクトも動き始めているんですよ。プライシング、マーケティング、戦略のあり方をダイナミックにして社会課題を解決すると共に、御社の事業のサステナビリティも上げていきましょう、という話をしています。

 

ダイナミックエコノミーとは

菅原:ここまで“ダイナミック”という言葉が繰り返し出てきましたが、「これからのビジネスに必要なダイナミックさとは何か」という観点でお話を伺いたいと思います。

松村:ダイナミックさと経営戦略がどういう繋がりを持っているのかというところで、ひとつ経営の名著からの言葉を紹介します。

“知的機動力とは、共通善に向かって実践知を俊敏かつダイナミックに創造、共有、練磨する能力である”

 

これは野中郁次郎さんらの『知略の本質 戦史に学ぶ逆転と勝利』という書籍からの引用です。要するに、全部をぶち壊して変えるのも全部を守るのも、どちらもうまくいかないと。常に重心が変わる中で、バランスを取りながら新しいケイパビリティを作ったり、過去の負債を清算したり、不必要な能力を捨てたりといったことを繰り返すことが戦略の本質だと説かれています。変化の激しい世の中において、この知的機動力がキーポイントだと私は考えています。もう一つ、別の資料をご覧ください。

これは、ハルモニアの新ブランドを作っていくタイミングで自分なりに整理した資料です。「ビジネスのすべてをダイナミックにする」というミッションを掲げているので、ビジネスのすべてとは何かということを構造化してみました。一番上にあるのが対応すべき変化。価値提供をしていく主体となるサービスの買い手がいるはずなので、顧客のニーズ、感性などが含まれます。

事業環境の変化にどう応えていかなければいけないのか、というのが下から上に伸びている矢印側の企業活動のレイヤーです。求められているものが変われば提供価値を変えていかなくてはなりません。提供価値を変え続けるためには、タッチポイントやインターフェースを改善しやすく、ダイナミックにすることが大切でしょう。そのためには、動的な価値提供やタッチポイントを回し続けられるプロダクション組織やサプライチェーンを持たなければいけません。

このように、提供価値を変えていくためにはタッチポイントを変えなくてはいけない、タッチポイントを変えるためにはその下を変えなくてはいけない・・・・・・とレイヤーを降りていくと、戦略の課題、組織の課題、業界・文化の課題へと繋がっていきます。これらのビジネス全体を昔ながらの方法で続けていくのではなく、動的に変えていくのが「ダイナミックなビジネス」であると捉えています。

菅原:ハルモニアとしては、どこまでをスコープにするのでしょうか?

松村:最終的には世の中を変えたいので、一番下の業界カルチャーや文化までですね。個人的には、硬直的な世の中ってつまらないよねという前提があって、どんどん変わっていく世の中の方がエネルギッシュで楽しい社会なんじゃないかなと思っています。ただ、ハルモニアが直近でお答えできるのはど真ん中のプライシングですね。ダイナミックな組織、戦略、プライシングというところが我々の中心的な領域だと思っています。

 

ハルモニアが目指すダイナミックエコノミーの世界とは

菅原:そういえば、“ダイナミックエコノミー”という新しいワードが生まれたときに実は僕も立ち会っていたんですよね。

松村:そうなんです。今年(2021年)の頭くらいに、「ダイナミックプライシングを世の中にもっと普及していくにはどう定義するべきか」という相談を菅原さんにしていました。そのとき菅原さんが、「シェアリングエコノミーのように、この考えをプライスよりもエコノミーという広さで再定義した方がいいんじゃないか」というアイディアを出してくれました。

菅原:当時からフードロスなどの社会課題の話が出ていたので、より広い意味を持つダイナミックエコノミーという言葉が自然と出てきたのだと思います。

松村:そんな菅原さんからもらった言葉をキーワードに、ダイナミックエコノミーのビジョンを構想していきました。従来の経済を固定的な経済(一定量の生産をして画一的な販売をする経済)としたとき、これを継続するには人類全体の営み自体を小さくするか、効率を上げていかなくてはなりません。そこで考えたのが、物流の運び方・人の動き方・商品の動き方などを細かく分け、状況によって届け方や売り方を変えていくことで、ピーク・オフピークの需要のムラや、商品が余るという無駄を減らせることこそが、プライシングの最も大切な意味なのではないかということ。これらを実現していくための各レイヤーの変革ができあがった世の中を、ダイナミックエコノミーという言葉で定義することから発展させていきました。

ここまでの話では抽象度が高過ぎるので、ダイナミックエコノミーをよりわかりやすくするために3つのキーワードを挙げてみました。

1つ目は「流動」。硬直化したバリューチェーン、取引関係、雇用関係を流動的にしましょうというものです。明らかに今起きているトレンドの1つですよね。

2つ目は「連動」。これは分断の反対の意味で、例えば複数の事業やサービスを扱っている企業内でデータが連動していなかったり、1つのビジネスだとしても製造段階や流通販売段階のシステムがバラバラに作られていることってありますよね。そうではなく、タイムリーな受発注やお客様のニーズを受け取ってすぐにプロダクトにフィードバックするといった連動がもっと促進されていくべきだ、というものです。

3つ目は「変動」。まずは、製造量や販売量を変動させましょうと。そして変動させられるようなサプライチェーンにし、さらには変動的な価格で需要の変化に対して応えていきましょうというものです。

菅原:なるほど。今おっしゃった流動・連動・変動が起きている世界がいずれくると。

松村:世界が同時には難しいと思いますが、ある一部の集積されたシティではできるんじゃないかなと思っています。今想像しているのは、人と違った時間帯にズラして生活することで得をしたり、空き時間に合わせて映画館など座席数が決まっているところへスムーズに行けるという生活。企業側は混んでいるときは値段を上げればいいし、空いているときはお客さんに利用を促進するオファーを届けたりすることもできるだろうなと。

あと、時間をお金で買うということがこれからもっとかっこいいことになるんじゃないかなとも思っています。例えば行列必至のケーキを購入したいときに、ファストパスを購入して簡単に購入するという選択をする人がいてもいい。反対に、時間よりもお金を大切にするという選択肢も当然あっていい。選択肢が増えていく中で、それぞれのチョイスができるような時代になるんじゃないかなと考えています。


 

お読みいただきありがとうございました。

次回のDynamism Talk(11月2日(火) 12:10〜12:55)は「小売業界の変革と持続可能性」と題し、東芝テックの平等弘ニ氏をお招きして小売業界の未来や、食品ロス削減の具体策について本音で語り合います!

【Dynamism Talk】Vol.1 、東芝テック平等氏 ハルモニア松村